ワーケーションは「仕事をしながら休暇を取る働き方」です。
そこで忘れがちなのが、労働基準法などを代表する「労働法令」です。
ワーケーションは労働をすることに変わりはないので、労働法令はしっかりと順守する必要があります。
ということで今回は、ワーケーションと労働法令について解説していきます。
労働法令について
ワーケーションはテレワークと同様、就業場所が離れていても労働法令が適用されます。
代表的な労働法令は下記になります。
- 労働基準法
- 労働安全衛生法
- 労働者災害補償保険法
上記3つの法律を考慮しながら注意するべきポイントを解説していきます。
年次有給休暇について
ワーケーションは「仕事をしながら休暇を取る働き方」ですが、休暇中も仕事をするという意味ではありません。
つまり、「ワーケーションをしているから有給休暇はいらないよね?」ということにはなりません。
年次有給取得に関しては「労働基準法第39条」に記載があるので見ていきましょう。
労働基準法第39条
使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
引用元:労働基準法(第39条)
要約すると、「労働者の雇入れ日から6か月継続し、全労働日の8割以上の日数を出勤した労働者に対して、必ず10日間の有給休暇を付与しなければならない」とあります。
法的義務があるので、企業は上記の条件を満たす場合に必ず有給休暇を付与しなければなりません。
時季指定義務がある
2019年に労働基準法が改正され、「特定の条件を満たす労働者に対し年5日の有給休暇を取得させること」が義務となりました。
労働基準法が改正され、2019(平成31)年4月から、全ての企業において、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、年次有給休暇の日数のうち年5日については、使用者が時季を指定して取得させることが必要となりました。
引用元:年次有給休暇の時季指定義務
まとめると・・・
・有給休暇を付与するのは企業としての義務である。※労働基準法第39条
・法改正により、企業は有給を取得させる義務がある。
・ワーケーションを行う場合も労働をするので、当然労働法令は適用される。
実労働時間の把握・管理について
ワーケーションはテレワークと同様、実労働時間の管理・把握が難しくなります。
先ほどは有給休暇についてお話をしましたが、続いては「実労働時間の把握・管理」についてお話していきます。
労働時間の把握義務がある
まずは、労働安全衛生法の条文を見ていきましょう。
第六十六条の八の三
引用元:労働安全衛生法(第六十六条の八の三)
事業者は、第六十六条の八第一項又は前条第一項の規定による面接指導を実施する ため、厚生労働省令で定める方法により、労働者(次条第一項に規定する者を除く。)の労働時間の状 況を把握しなければならない。
要約すると、「厚生労働省令で定める方法により、労働者の労働時間は把握しなくてはならない」とあります。
厚生労働省令ってなに?
労働安全衛生法には、「厚生労働省令で定める方法」で労働時間を把握しなくてはならないと記載がありました。
この「厚生労働省令で定める方法」が何なのかが重要なので、実際に厚生労働省の「労働安全衛生規則」を見てみましょう。
第五十二条の七の三
引用元:労働安全衛生規則(第五十二条の七の三)
法第六十六条の八の三の厚生労働省令で定める方法は、タイムカードによる記録、 パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法とする。
2 事業者は、前項に規定する方法により把握した労働時間の状況の記録を作成し、三年間保存するため の必要な措置を講じなければならない。
要約すると、「労働時間の把握については「タイムカードによる記録」「パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録」などの方法で行う」とあります。
企業は、労働者の労働時間を適切な方法で管理しなくてはならないということですね。
記録に関しては3年間保存する必要があるので注意してください。
労働時間の把握が困難な場合
労働安全衛生法に記載の通り、企業が労働者の労働時間を把握することは義務となります。
ただし、どうしても把握が困難な状況もあるかもしれません。
そんな状況のために、「事業場外労働のみなし労働時間制」という制度があります。
労働基準法のみなし労働時間制
労働基準法には、時間把握が困難な労働者に適用できる「事業場外労働のみなし労働時間制」という制度が用意されています。
第三十八条の二
労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。
引用元:労働基準法(第38条の2)
要約すると、「事業場外で業務に従事した場合であり、かつ労働時間を算定することが難しい場合に限り、一定の時間だけ労働したこととみなすことができる」とあります。
ただし、事業場外労働のみなし労働時間制は、あくまで「労働時間の把握が困難である」という状況でなければなりません。
企業がするべきこと
企業は労働者の労働時間の把握・管理をしなくてはなりません。
ただし、やむを得ない場合には労働者の自己申告による労働時間の把握も可能ですが、実労働時間通りの申告をするように教育・周知などを行う必要はあります。
また、各従業員とこまめに連絡を取れる環境を整備することも重要です。
手待ち時間には気を付ける
労働時間の把握・管理は必要ですが、例えば「労働者が常に電話に出られる状態にする」などはアウトです。
労働基準法上は「手待ち時間」に該当し、すべて労働時間とみなされる可能性があるので注意してください。
手待ち時間が特に多い場合は断続的労働として、労働時間規制の特別規定が設けられています。
手待ち時間が労働時間であることを前提とした規定と解釈できますね。
※労働基準法41条3号
まとめると・・・
・企業は労働者の労働時間を適切な方法(タイムカードやPCの記録)で把握・管理しなくてはならない。
・労働者の労働時間がどうしても把握できない場合は、みなし労働として計算することは可能。
・企業は労働者の労働時間の把握に最善を尽くす必要がある。ただし、労働者を拘束してはならない。
労働災害について
ワーケーションをする場合は遠方で仕事をすることになりますが、そういった際に怪我などをした場合のことも考えておかなくてはなりません。
労災の境界線を決める
業務上の災害については労災保険給付の対象となりますが、私的行為が原因であるものは業務上の災害とはなりません。
ただし、私的行為かどうかの基準があいまいな場合、労働者が病院で労災保険ではなく健康保険を利用してしまう可能性もあります。
安易に健康保険を利用してしまうと、企業は労災隠しを疑われる可能性もありますし、当然ですが従業員は自己負担を求められます。
業務上発生したのか、私的行為なのかの境界線ははっきりと分かるように各企業内でルールを決めておきましょう。
柔軟な働き方にもデメリットはある
ワーケーションは柔軟な働き方ですが、労働者が怪我をした場合に企業としてどう判断するのかはしっかりと決めておく必要があります。
労災かどうかの境界線は国が決めるものではなく、あくまで各企業が規則として決めることです。
柔軟な働き方は企業にとって良いことですが、企業として考えなくてはならないことがあるという点も押さえておきましょう。
まとめると・・・
・労災の境界線は企業がしっかりと決めておく。
・柔軟な働き方は良いことばかりではないので、企業として準備しなくてはならないことを押さえておく。
まとめ
今回は、ワーケーションに関連する労働法令についてお話しをしました。
ワーケーションやテレワークは自由な働き方ですが、仕事をすることに変わりはないので当然労働基準法などの法律が適用されます。
また、法律は改正されるものなので、各企業の担当者はしっかりと最新の情報を得るようにしましょう。
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